ア行

アリスのままで

2014年 アメリカ リチャード・グラッツアー&ウォッシュ・ウェストモアランド監督 主人公である50歳の言語学者アリスは、若年性アルツハイマー患者だ。 この病気は、早期で知性的な人ほど進行が速いという。 他方、75歳以上の認知症患者は3.5人に1人の割…

沖縄 うりずんの雨

2015年 日本 ジャン・ユンカーマン監督 まさに沖縄の近現代史! この1本を観れば、その全てが分かる。 内容の重さに、うなってしまった。 数々の本を読み、映画を観、現地を訪れ、少しは分かっていたはずの沖縄。 本作は、私の貧弱な沖縄観を何倍も深化させ…

アンコール!!

2012年、イギリス、ポール・アンドリュー・ウィリアムズ監督 あまりにもステレオタイプで、予定調和とご都合主義丸出しの退屈な作品だ。俳優がテレンス・スタンプ&ヴァネッサ・レッドグレイブと豪華なので、もっと深みがあるのかと期待していたが、単純なお…

愛、アムール

「人生はかくも長いが、かくも素晴らしい」。主人公である老いた妻のこの台詞が全てを物語っている。「2012カンヌ」をはじめ各国の映画賞を総なめにし、今年の米国アカデミー賞でも5部門にノミネートされているミヒャエル・ハネケ監督の話題作。人生の最期…

イラン式料理本 

タイトルが軽妙なので、コメディかと思っていたが、非常に重いドキュメンタリーである。 72分とは思えないほどの濃密な内容。監督の家族や知人など7人の身近な女性たちが登場し、自慢料理を作りながら、イラン女性の置かれている状況と壮大な家族の歴史を本…

大鹿村騒動記

娯楽映画としての評判は上々のようだが、大鹿村のファンの1人として、いくつか不満な点がある。 この村は私のお気に入りのスポット。長年かけて秋葉街道を走破する過程で、15年前から6、7回訪ねている。村の隅々まで車で走ったが、「日本で最も美しい村」…

アメリア 永遠の翼

(ネタばれ注意!) 女性の自立を描く作品ではあるが、観ていて疲れた。 無謀な冒険を実現させた主人公に拍手は送れない。「自分の夢を叶えるために」莫大な捜索費用をかけて税金の無駄遣いをするのはやめてほしい。 時代のアイコンとして、政府も社会も彼女を…

悪人

(ネタばれ注意!) 「母」のメタファーである「灯台」が、キーワードだ。それは人間の生存の条件となる「イメージの獲得」へとつながり、ラストシーンで鮮やかに描き出される。 さまざまな解釈ができる本作は、根源的な問題を孕みながら、サスペンスフルでか…

アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち

60〜70年もの演奏歴を持ち、現在も現役として活躍中のマエストロたち22名が、ニューアルバムを制作するために一堂に会し、世紀のコンサートを実現させたドキュメンタリー。 国宝級の演奏者たちが、世界3大劇場の1つ、ブエノスアイレスのコロン劇場で…

葦牙(あしかび)

昨今、3日、いや2日に1人、親からの虐待により子どもが殺されている、という。 本作は、そうした子どもたちが、地域の養護施設で再生を果たしていくプロセスを丁寧に追った、明るく希望に満ちたドキュメンタリーである。 goo映画: 映画と旅行を愛する人々…

 いのちの作法

温かさが全編にあふれ、観る人を幸せに浸してくれる。 こんな楽園が、日本にあったとは・・・。 究極の福祉行政を実現しているのは、東北の小さな町、岩手県西和賀町(2005年、旧沢内村と旧湯田町が合併)である。 http://nishiwaga-film.main.jp 「豪雪・貧…

あるいは裏切りという名の犬

フィルム・ノワールは、 コントラストと夜間撮影を多用し、作品全体に暗く陰鬱な雰囲気が漂うのが特徴だ。さらに、必ず警官やギャング、情報屋などが登場し、”運命の女”がキーとなって、複雑な相関関係が展開される。 このジャンル、ハリウッド作品では、ス…

無花果の顔

不思議な作品である。観ている最中も、観た後も、奇妙な気分に浸される。 目に見えるものと見えないもの、生と死、現在と過去、自己と他者、女と男、人間と動物・・・。 これらをすべて同じ位置から捉えた、”境界のない感覚”とでもいおうか。 goo映画: 映画…

アダン

実在した孤高の日本画家、田中一村の、求道者のような激しい生き方を描いた秀作。監督は「みすず」「HAZAN」などの五十嵐匠。 http://moviessearch.yahoo.co.jp/detail?ty=mv&id=324628 アダンとは、一村が好んだモチーフの南国のフルーツ。パイナップルに似…

家の鍵

不在の母、突然出現した父、そして重度の障害を持つ15歳の息子の「人生の重みを問う」物語。力作である。 goo映画: 映画と旅行を愛する人々に向けた情報サイト。「個性的すぎる映画館」、国内外のロケ地めぐりルポ、海外映画祭と観光情報、映画をテーマにし…

あおげば尊し

ゆれ動く不安定な画面、聞き取りにくい音声、空きショットの多用・・・。いかにも何かを期待させる演出だ。教師としての信念や確信の持てない中年男性の苦悩を描いた秀作になるはずだった。 goo映画: 映画と旅行を愛する人々に向けた情報サイト。「個性的す…

ある子供

日本の若者にも通じる、大人になりきれない”子供”を、ドキュメンタリータッチで描いた力作。手持ちカメラによる移動撮影、アングル、音声、小道具などを効果的に用いて、深読みのできる作品となっている。スリリングな先の読めない展開もすばらしい。 goo映…

鬼が来た

goo映画: 映画と旅行を愛する人々に向けた情報サイト。「個性的すぎる映画館」、国内外のロケ地めぐりルポ、海外映画祭と観光情報、映画をテーマにしたお店紹介など、旅行に出たくなるオリジナルコンテンツを配信中。 モチーフは、戦争という過酷な状況に置…

アニムスアニマ

http://moviessearch.yahoo.co.jp/detail?ty=mv&id=321574 スタイリッシュな影像と、深読みのできる演出に魅了された。 本作の眼目はジェンダー(社会・文化的性別)の解体である。 「アニムス」「アニマ」とは、それぞれ女性が抱く理想の男性像、男性が抱く…

アイランド

(ネタバレ注意!)本作は、西洋形而上学の「肉食・男性論理中心主義」に疑問を投げかけており、単なるSFパニック映画とは一線を画す秀作である。 主人公の男性リンカーンと女性ジョーダンは、神ならぬ人間が創造主となった第Ⅱ世代(クローン)のアダムと…

 UN Loved

http://moviessearch.yahoo.co.jp/detail?ty=mv&id=238754 イントロは、雨が降っているかどうかを確かめる手のアップ。その後も重要なシークェンスの度に、人物は異なるがこのカットが多用されていた。これは“内省”がキーワードであることを暗示している。 …

いつか読書する日

(ネタバレ注意!!)アイデンティティは、他者との関係(=世界との苦闘)の結果によって形成されるが、同時に、他者に対する行為の原因ともなる、というパラドックスを孕んでいる。 美奈子は、15歳のとき、”一生この街を出て行かない”と決め、20歳のとき、”…

宇宙戦争

(ネタバレ注意!!) 本作は徹底してトム・クルーズが演じる主人公=弱者であるレイの視線で描かれている。わが身とわが子だけを守り通す、アンチ・ヒーロー的な彼の行動は、ヘブライ語の「スミカルカ=サバイバルの知恵、賢明さ(7月16日付朝日新聞参照…

運命を分けたザイル

原作者である登山家のジョーは言う。「山はこの世で最も美しい場所。空気が広がり、自由に浸れる・・・。だが、相棒を信頼しきらなければ、頂上に到達できないし、生還もできない」と。 しかし、ジョーは下山の途中で足を骨折、宙づりになった。共倒れになる…

海を飛ぶ夢

テーマは、原題『the sea inside(内なる海)』からも分かるように、“イメージ”のあり方である。 「今日は海が見えなくて残念ね」「いや、目をつぶれば見えるから十分・・・」 主人公のラモンは、かつては水夫として世界中を旅して回っていたが…