沖縄 うりずんの雨

2015年 日本 ジャン・ユンカーマン監督

まさに沖縄の近現代史
この1本を観れば、その全てが分かる。


内容の重さに、うなってしまった。
数々の本を読み、映画を観、現地を訪れ、少しは分かっていたはずの沖縄。
本作は、私の貧弱な沖縄観を何倍も深化させてくれた。

映画 日本国憲法』『チョムスキー9.11』などで知られるアメリカ人監督、ジャン・ユンカーマンが、戦後70年の私たちに問いかける、心血を注いだドキュメンタリーである。



うりずんの雨は、血の雨・・・」と詠まれている。
うりずんとは、潤い初めのこと。
沖縄の冬が終わり、大地が潤い始める3月ごろから、梅雨に入る5月くらいまでの時期を指す。


4日1日から始まった沖縄地上戦は、丁度その季節。
この時期になると、悲惨な戦争の記憶が甦り、体調不良になる人が多いという。



アメリカ人監督ならではの取材が随所に活きている。
例えば、地上戦で対峙し、生き残った元米兵と元日本兵
日本人をレイプ殺人した米兵、
米軍内での女性兵士への性暴力の実態など、
日米双方の語り部がほぼ均等に登場する。
さらに新発掘の米軍撮影資料映像などもふんだんに用いられている。


それらの映像が重層的に構成され、沖縄戦の実像、集団自決、差別的な占領政策、強引な基地建設、反基地闘争、日本政府の強制的な対応、私たちの差別と無関心、沖縄の人たちの深い失望と怒り、粘り強さ、不屈の戦いなどが語られる。


内地出身の元日本兵は、「食文化の異なる沖縄の人々を、大和民族ではないと見下したことが全ての根源」と語る。
今の私たちの沖縄に関する意識の薄さとと繋がっている。
鋭い指摘にたじろいだ。



戦後生まれの僧侶は、「返還前、アメリカの支配から逃れるには、日本に行くしかない。日本には憲法があり、戦争放棄、軍隊なし、基本的人権尊重、経済的発展がある、と憧れていた。しかし、復帰しても、未だに何も変わらない。戦後のままだ」と言う。



そう、戦後は終わっていないのだ。
沖縄を真の「日本国」にするには、日米双方の市民の強い思いが不可欠、と監督は言う。
それにはまず、沖縄のことを知らなければ…。


私の子供たちも、沖縄といえばリゾートを連想するようだ。
私は戦跡や基地巡りを必ずすることにしているが・・・。


海軍壕の血の匂いを嗅いだ時…。撤去される前の「象の檻」を探し当てた時、嘉手納基地の騒音を耳にした時、普天間基地の長いフェンスにぞっとした時。たとえ一瞬でも、戦中戦後の沖縄を生身で感じる時があれば、沖縄の現状に目を瞑ることはできないのではないだろうか?


目を背けたくなるような凄惨な映像も提示されるが、決して声高に訴えているのではない。
知的で、的確で、濃密。
何よりも沖縄の人々への愛と尊厳が感じ取れる。優しい眼差しに満ちている。


2時間28分の長尺ものだが、全ての日本人はもちろん、アメリカ人、そして世界中の人々に観てもらいたい。
戦争とはどういうものか、自分自身の問題として考えさせてくれるから。
(5つで満点)