2013-01-01から1年間の記事一覧

燦々

2013年、日本、外山文治監督 高齢者が主人公の作品が目白押しである。本作は老いや死を背景にした、少しシリアスなラブコメディ。脚本・監督は高齢化社会をテーマにした短編部門で数々の賞に輝いた32歳の外山文治、長編デビュー作だ。吉行和子、山本学、宝田…

風立ちぬ

宮崎駿作品は苦手だ。しかし、複数の映画サークルで課題となったため、仕方なく観たが、やはり好きにはなれなかった。 足が地に着いていないのだ。絵空事のような世界が展開し、しらけるばかりだった。 なぜか? 第一に、女性が男性の視点から描かれているの…

共喰い 2013年、日本、青山真治監督

オイデプス王と王女メディアの悲劇を想起させる家族の物語。息子は同居している父の愛人と、父は息子の恋人と交わり、母は夫にとどめをさす。 都会から離れた小さな田舎町。町を貫く淀んだ河口に架かる大橋。「河は女の割れ目」という父は、それを跨ぐ橋に自…

3人のアンヌ

2012年、韓国、ホン・サンス監督 言語は、それを書いたり口から発せられたりした瞬間から1人歩きする。本人の意図と受け手の解釈との間に裂け目が生じ、オリジナル性は失われ、他者に委ねられるからだ。 とりわけ書き言葉は、本人の在不在に関わらず(死後も…

少年H

2013年、日本、降旗康男監督 我が国の右傾化が話題になる昨今、「東宝」というメジャーな映画会社により、反戦メッセージ満載の本作が製作されたことは賞賛に値するといえよう。 しかし、現存者の自伝映画は、本人に対するリスペクトもあってか、美化されが…

アンコール!!

2012年、イギリス、ポール・アンドリュー・ウィリアムズ監督 あまりにもステレオタイプで、予定調和とご都合主義丸出しの退屈な作品だ。俳優がテレンス・スタンプ&ヴァネッサ・レッドグレイブと豪華なので、もっと深みがあるのかと期待していたが、単純なお…

クロワッサンで朝食を

2012年、フランス・エストニア・ベルギー、イルマルラーグ監督 「老い」をテーマに据えた、シリアスな作品である。85歳のジャンヌ・モローが、金持ちの我が儘かつ意地悪ばあさんを過剰なまでに演じている。いつまで経っても女を失わず、生々しいありように…

嘆きのピエタ

2012年 韓国 キム・ギドク監督 (ネタバレナシ) 彼の真っ直ぐな眼差しが私をガツーンと打ちのめした。観終わってからもなかなか立てない。キム・ギドク監督は、訴えたいことを直球で観客に投げ、その反応を注視するのだ。 「金で人を試す悪魔」と呼ばれる借…

はじまりのみち

2013年 日本 原恵一監督 伝記映画を一代記としてではなく、ある期間に集約して表現するという本作の手法は、スピルバーグ監督の近作『リンカーン』を想起させる。戦時中、失意のうちに帰郷した木下恵介監督の数日間のエピソードを丹念に描くことで、その人柄…

[ア行]愛さえあれば 

2012年 デンマーク/監督 スサンネ・ビア デンマークのシリアスドラマの鬼才スサンネ・ビアが、イタリア・ソレントを舞台に大人のためのラブコメディを作った。 原題は『坊主のヘアドレッサー』。がん治療で頭髪が抜け、ヘアーウィッグが手放せない女性美容…

ブルーノのしあわせガイド

観ている間中幸福感に浸れる数少ない作品。心が和み元気がもらえる。とかく殺伐とした現代にあって、束の間とはいえ、ほんわか気分になれるのもいいものだ。 ある日突然、「貴男の息子を預かって」と告げられ、15歳のルカと同居するはめになった元高校教師の…

ホーリー・モーターズ

「映画はモーション(動作)がエモーション(感動)を作ってきた」と語るレオス・カラックスが、13年ぶりに怪作を撮った。タイトルバックから随所に映画へのオマージュがちりばめられている。 のっけから、世界最初の映画といわれるリュミエール兄弟のシネマ…

ヒステリア 

女性用ヴァイブレーターの開発秘話がベース。ちょっと引いてしまいそうな内容だが、女性監督ならではのフェミニズムを絡めた清々しい仕上がりになっている。 イギリスのヴィクトリア朝(1837〜1901)末期が舞台だ。産業革命がもたらした経済の発展が成熟に達…

千年の愉楽

低予算のため、時代考証に難がある、と言う人も多いが、作品の世界観に魅せられ、そうしたことが全く気にならずにのめり込んで観ていた。 中本の男たちの得も言われぬ美しさと、オリュウの地母神のようなパワーに打ちのめされたのである。 「路地」は人間界…

ザ・マスター

第2次世界大戦の帰還兵フレディと「ザ・マスター」と呼ばれる新興宗教の教祖トッドは、偶然の出会いにしてはあまりにも強い絆で結ばれている。なぜか? ラスト近くでトッドは「前世で、僕たちは戦場で伝書鳩を放ったところ、2羽だけ帰ってきた」と言う。 …

東ベルリンから来た女  

テーマは、袋小路に立たされたとき、人はどのような決断を下すのか? ベルリンの壁崩壊前の旧東ドイツ。自由への希求を政府に撥ね付けられ、田舎町に左遷された優秀な女医バルバラが主人公だ。彼女は、西側の恋人ヨルクと東側の同僚アンドレ、2人の男性から…

愛、アムール

「人生はかくも長いが、かくも素晴らしい」。主人公である老いた妻のこの台詞が全てを物語っている。「2012カンヌ」をはじめ各国の映画賞を総なめにし、今年の米国アカデミー賞でも5部門にノミネートされているミヒャエル・ハネケ監督の話題作。人生の最期…

父をめぐる旅 異才の日本画家 中村正義の生涯

建築家の安藤忠雄を思わせる知的で力強い風貌。とりわけ眼力の鋭さは並々ならぬものを感じさせる。 中村正義(1924〜77)という郷土の画家(愛知県豊橋市出身)がいたことは、かなり以前から知っていたが、正式に作品を観たことがなかった。本作中でその絵を…

父をめぐる旅』上映のお知らせ

高校時代の友人である映画監督・武重邦夫さん(今村昌平の愛弟子で、今村プロ&日本映画学校の創設者)が、愛知県豊橋市出身の日本画家中村正義の生涯を描いたドキュメンタリー映画『父をめぐる旅』を完成。全国各地のミニシアターで順次上映される予定です…

東京家族

モチーフとなっている小津安二郎の名作『東京物語』が、戦後の家族関係の苛酷な状況を描いているのに対して、本作はどこかふわっとした浮遊感が漂う。絵空事のような幸福感に満ちている、といってもいい。 社会派ドラマでは、リアリティに欠ける点が少しでも…