・日本映画
1.アメリカばんざい
2.トウキョウ・ソナタ
3.実録連合赤軍
4.心理学者原口鶴子の青春
5.スカイ・クロラ
6.おくりびと
7.きみの友だち
8.いのちの作法
9.人のセックスを笑うな
10.ぐるりのこと


・外国映画
 1. 黒い土の少女
 2.ヤング@ハート
 3.この自由な世界で
 4.ブレス
 5.ゼア・ウイル・ビー・ブラッド
 6.妻の愛人に会う
 7.線路と娼婦とサッカーボール
 8.未来を映した子どもたち
 9.ホウ・シャオ シェンのレッド・バルーン
 10.ファンジニ映画版


 鑑賞本数は、近年では最も少なくて86本。しかし、「心理学者原口鶴子の青春」を初めとする内外のドキュメンタリーに傑作が多く、記録映画好きには収穫の多い年だった。


 劇映画では、例年通り韓国の作家ものが良質。今回も3本占めているが、映像美の完成度は抜群だし、哲学的な内容の濃さも魅力である。
 気になった作品について、述べてみよう。


 「アメリカばんざい」は、マイケル・ムーア監督の「シッコ」と同様、”日本の未来予測図”そのものだ。世界に誇る我が国の憲法9条を改悪するとどうなるか、明確な答えが表現されている。
なかでも印象深いのが、兵士の母やシニアの女性たちによる新兵募集阻止運動。「私たちは怒れる優しいおばあちゃん、みんなの命を助けるの」と歌いながら、募集ポスターに「Closed」の貼紙をして回る。
 法規に反するので手錠を掛けられるが、どの人もニコニコしながら「喜んで逮捕されます。1人でも入隊から救えれば価値がありますから」と胸を張る。
女性たちが、平和をめざす市民運動のかじ取り役をしていることに拍手を送りたい。

 
 「心理学者原口鶴子の青春」は、 明治の女性の壮烈な生き方に圧倒された。現代の女性を遙かに凌ぐ強烈なパワー。「万能」という文字は彼女のためにある、とさえ思う。鶴子の足跡を丹念に追った力作。女性監督ならではの繊細さと温かいまなざしが全編にちりばめられている。
 その一方で、先駆者としての実力という点では第一級なのに、地味な学者なので映像資料などが入手しにくい、という事情を考えると、ドキュメンタリーでは限界があると感じた。
 鶴子の日記『楽しき思い出』を読むと、いきいきとした日常生活が小説のように鮮やかに描かれている。そうしたドラマをアニメや実写で構成し挿入すると、より共感を得られるのでは?


「黒い土の少女 」では、不在の母の幻想だろうか、謎めいた黒衣の女が二度登場する。
 母が幻想の中にしか存在しないことを知っている少女。母の代わりとなって家事や弟の世話をする彼女のけなげな様子が胸を打つ。
 類稀な影像美とストーリーの意外性。鏡、足跡(痕跡)、雪、廃屋・・・といったメタファーが幾重にもはりめぐらされ、多様な解釈が可能だ。
 監督のチョン・スイルは、「キムチを売る女 」の 監督チャン・リュルとは友人関係にあるそうだ。二人に共通するのは、1ショットが絵画のように美しく、音楽や効果音を排除し、台詞も極力避けるというスタイルである。
両作品とも貧しい女性が主人公で、片親家庭、炭鉱暮らしの経験、ネコイラズなどが共通のファクターとなっている点も興味深い。


「ゼア・ウイル・ビー・ブラッド」は、米国を中心とする資本主義社会の拝金思想に対する痛烈な批判がある。旧約聖書ギリシャ神話にも通じる人間の根源的な「血」についての物語でもある。
 予定調和をもたらさず、先の読めない複雑な展開が重厚な作品に仕上げている。
 随所に見られる反復は、人類が存在する限り、利権や骨肉などを巡る争いが繰り返され、「血は流れるだろう 」というタイトルを暗示しているようだ。
(初出 シネマジャーナルVOL.76)