5本
『ミラノ、愛に生きる』
富豪に嫁いだロシア出身のヒロインの心身の解放を描く。
故郷を捨てた悲哀、夫によりモノ化された日常、能面のような表情で暮らす贅沢三昧・・・。
人間の本能である「食」に触発され、虚飾に満ちた人工の世界〜自然児へと脱皮するプロセスに共感。
料理やインテリア 、衣装などのセンスが光る 。
ヴィスコンティを想起させる、いや彼を超えるかもしれない豪華でシュールな映像美は圧巻。
観客に媚びない演出がいい。ラストの曖昧さをどう解釈するか?
★★★★(★5つで満点)
『アニマル・キングダム』
タランティーノが絶賛した、実在の犯罪一家の絆と裏切りを描く秀作。
陰で仕切るゴッドマザーがはまり役だ。その孫である少年の成長物語でもある。
母の死により突然、野生の王国に放り込まれた少年が、やっと居場所を見つけるラストが凄い!
登場人物が多いので、相関図を頭に入れてから観たほうがいいかも?
★★★★(★5つで満点)
『ルルドの泉で』
実に知的な作品だ。
過剰に捉えがちな「奇跡」という事象を冷静に描き、明確な答えを出さない。
登場人物も観客も宙づりにされながら、神や心、肉体について深く考えさせられる。
集団や組織に個人がどう関わっていくのかを暗示する冒頭シーンの静謐な美しさは、一生心に残るだろう。
省略の効いたセリフ、緻密で神秘的な映像、「アベマリア」などの宗教音楽が心に沁みいる。
必見!
★★★★★(★5つで満点)
『ピアノマニア』
巨匠たちを陰で支える調律師が主役の希有なドキュメンタリー。
狂気といってもよいほど完璧を追求する演奏家たちの要求に応える彼もまた、アーティストなのだと知った。
ミステリーのような緊張感のなかにユーモアが漂う、緩急自在な作風が見事。
本作の中心となる、ピエール・ロラン・エマールによるバッハの≪フーガの技法≫を初め、ブレンデルやラン・ランなど数々の一流 演奏家の音楽も堪能できる。
★★★★★(★5つで満点)
『明りを灯す人』
音楽なし、省略されたセリフと美しい映像に魅惑される。
夫婦愛、人情、正義感などがとぼけた味わいで描かれ、底流にある反体制メッセージがじわじわと伝わってくる。
風力発電で村を豊かに、と願う電気工。その思いは、大震災後の私たちの願いとも通じる。
しかし、体制派の権益優先思想に抗う彼が、男児を産んで欲しくて、友人に「妻と寝てほしい」と頼むのはなぜか?
男尊女卑のままでは、体制を改革できないのに・・・。
中国人の資本家に媚びる女性を助けようとして、電気工に悲劇が起こるが、自己所有欲(彼女は彼のミューズだった)を邪魔された悔しさもあったのでは?
女性の描き方に問題があるため、骨太なテーマがボケてしまい残念。
★★★★(★5つで満点)