サンドラの週末

2014年 ベルギー・フランス・イタリア  
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督


車道、玄関扉、車のドア、窓、フェンス…。
障壁物の多用が、他者との関係性の難しさを表している。
本作は、自己と他者との関わりを徹底的に抉り出し、人はどうあるべきかを考えさせてくれる。


長期の鬱病から復帰した金曜日、「社員の投票で貴女の解雇が決まった」と告げられたサンドラ。
生活のために働き続けたいと願う彼女を見かねた同僚の計らいで、1000ユーロのボーナスと、彼女の雇用継続のどちらかを選択する再投票を、週明けの月曜日に実施することになつた。
2日半で16人の過半数を味方につけなければならない。


カメラは、1人ずつ自宅を訪ねて説得する彼女を丹念に追う。
ただそれだけ。
ドキュメンタリーのような手法である。
主演の美人女優、マリオン・コティアールもノーメイクで奮闘。



時間との戦い、裏切り、恩寵、非情、家庭崩壊…。
彼女自身だけでなく、同僚とその周辺をも巻き込み、次第に追い詰められていく。


止めたはずの薬を飲みながら駆けずり回る、痛々しいサンドラ。
我々は、彼女とともに薬を服用し、嘔吐し、水をがぶ飲みする。


失業率の高いフランス。底辺労働者の生活は楽ではない。
経営者に背けば即解雇が待っている。
彼女は、「気持ちは分かる」と、反対者にも理解を示し、無理強いはしない。


二律背反に揺れ動いた人もいたに違いない。
一概に、賛成が善で、反対が悪とはいえないのだ。


そう、この引き裂かれた感覚が重要である。
反対者も、決してすんなりと結論を出したのではないだろう。
(もし自分が彼女の立場なら)と一瞬でも考えたら、それは人間として当然で、かつすごいことなのだ。

自己と他者は表裏一体、お互いに鏡の存在である。
だから他者との遮断など不可能だ。
自己の都合を優先しても、どこかで他者を意識せざるを得ない宿命…。
誰にもある「良心」が、他者を犠牲にすることを良しとしないのである。


さて、月曜日。
私は、想定外の結論に深く感動し、泣いた。
席を立つことができなかった。


数は問題ではない。
彼女の2日半の行動のプロセスこそが眼目である。
それは、彼女はもちろん、関わった人達全ての人生感に影響をもたらし、成長に結びつけた。
人は他者なくしては成長できないし、生存できないのだ。
(★5つで満点)