ハッシュ

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40歳を前にして、子供を生もうかどうかと迷う女性は多い。女性の出産には、タイムリミットがあるからだ。十年位前に、知人がそうやって駆け込み子作りをした。
彼女を見て、同世代の女性たちは刺激を受け、とりあえず作っておこうかと、相手探しを始めたのには驚いた。もちろん結婚するつもりは毛頭ない。


 家族神話はとっくに崩壊している。女性たちは「出産」という、男性には味わえない体験を一つの「快楽」として捉え、子育てすらもホビーとして成立させているのだ。


 幼いころ一度もキュッと抱きしめられた記憶がない、と言う朝子。親との関係に絶望している彼女には「自分の家族は自分で選びとりたい」という、強い意思がある。
 朝子が、ゲイのカップルである直也と勝浩を子作りの相棒に選んだのは、賢い選択である。彼らはちゃんとした職業人なので経済力はあるし、ゲイだから異性愛セックスの関係に縛られることもない。
そのうえ彼らは細やかな神経の持ち主なので、精神的にも日常生活的にも不安のある朝子をフォローしてくれそうだからだ。
もちろん、彼らとの関係が破綻したとしても、歯科技工士の彼女は経済的には安定しているので、女一人で子育てしながら生きていくことはできる。


 彼女に突き上げられるようにして、自分たちも父親になれるのだ、と家族像を探り始める直也と勝浩だが、彼らもまた、それぞれに深い孤独の闇を抱えて生きている。
直也は、ヒステリックで過干渉な母親から逃れたいと思っているし、勝浩は暴力的な父に復讐しようとして、井戸の中に青いインクを投入した苦い思い出を引きずっている。


 孤独を意識しながら、人との関係性を構築するということは、生きるうえでの基本である。人生の選択肢の一つとして、彼らのような孤独を見据えた人間関係は、ある意味で理想かもしれない。
一見奇異に感じられるモチーフを扱いながらも、人間存在の本質を肯定的に描いた本作品は、「多様な生き方があっていい」と、力強く主張している。

・ハッシュ★★★★(★5つで満点)