北辰斜めにさすところ 

 先日、日本映画を応援する「中津川映画祭シネマジャンボリー2007」に初めて参加した。


神山征二郎監督の舞台挨拶があった。監督と主役を務めた三国連太郎さんが、いきさつや裏話など、大変濃いトークを30分ほどされた。
 公開は12月だが、岐阜県出身の監督がこの映画祭の顧問をしているので、特別上映が可能となったという。


 映画は、実在のモデルのエピソードを基にしている。旧制高校同士の因縁の野球試合を軸に、教育のあり方と反戦・平和の問題を提起する力作で、エンタテイメントとしても第一級である。


 「北辰斜めにさすところ」とは、旧制第七高等学校(鹿児島大学造士館の寮歌の一つで、北辰とは北極星をさす。鹿児島市では、北極星が「斜め」の方向に見えるため、地理的に南の位置にある、という意味だ。


大正15年、 旧制第五高等学校(熊本大学)との対抗野球試合で、些細なことから応援団が争い、以後20年以上にわたり中止となった。


 「死刑廃止・・・国家の権力によって人を殺していいのか」「大いなるバカになれ」「自分の頭で考えろ」と教えてくれた教授は、引率の学生たちもろとも長崎の原爆で死ぬ。


 さらに、投手だった軍医の主人公は、最も敬愛していた応援団長の先輩を戦場で見殺しにせざるを得なかった。彼はそのことを恥じて故郷の熊本県人吉には一度も帰っていない。


時代は代わって現代、この対抗野球試合が、七高即ち鹿児島大学の百周年記念イベントとして、人吉で行われることになった。主人公の孫も鹿児島大学の投手として出場する。
 OB挙げての来場要請攻勢に、果たして主人公は出席するのだろうか・・・。


 サッカーと同様、野球は代理戦争である。
 祖父の代では、勝負の行方が応援団のケンカに発展し、警官まで出動した。
 しかし、孫の代の記念試合は引き分けとなり、OBたちは和解する。


 戦争も死刑も、国家権力による殺人である。
 野球に託して平和への希求が込められているのだ。


 男性中心の映画だが、女性の存在が際だっている。
 男性たちの命運を握っているのは女性たち。節目には必ず登場して、物語の奥行きを広げている。
 主人公の妹が人吉まで来ていながら、記念試合を見ずに故郷の街歩きをするのは、”女性は戦争より平和を好む”ということの表現ともとれる。


 戦争の悲惨さを後世に語り継ぐ名作。必見である。 



上映終了後、別室で監督と映画評論家の山田和夫氏によるティーチ・インがあり、1時間ほど熱心な質疑応答が繰り広げられた。
 「初めに脚本があり、何度も手直ししたというよりは、作り込んだ。これほど作ったのは初めて」と監督。
 七高OBの興味深い発言もあり、充実した内容に大満足だった。
(★5つで満点)