桃さんのしあわせ

観ている間中、幸せに包まれていた。終わって欲しくない!と祈りながら観る作品なんてそんなに多くはない。 アジアを代表する女性監督のアン・ホイ(『女人、四十』)が、本作のプロデューサーの実体験に基づいて撮った温かい物語である。登場人物の全てが善…

密告者とその家族

愛知国際女性映画祭より パレスチナは、1967年の第3次中東戦争以来、イスラエル軍の占領下に置かれている。分離壁の建設により、自由に動けない住民たち。彼らの中には、貧しいが故にイスラエルに情報を提供して収入を得る「密告者」と呼ばれる人たちがいる…

牧夫、魚を飼う

愛知国際女性映画祭より 中国西部・新疆地区の少数民族の遊牧民、カザフ族の悲喜を描いた骨太な作品。監督もウルムチに生まれ育った少数民族出身である。10年前に撮ったドキュメンタリー作品を掘り下げ、描ききれなかった部分を肉付けしてドラマ化した。 森…

私のテヘラン

9月1日〜9日まで開催される愛知国際女性映画祭。一年に一度、全国の映画仲間と会えるのも楽しみの一つ。時間を見つけては、食事やお茶をともにし、4日は私主催で居酒屋での懇親会も開く。 『私のテヘラン』は、海外移住をテーマに、現代イランの切実な状況を…

イラン式料理本 

タイトルが軽妙なので、コメディかと思っていたが、非常に重いドキュメンタリーである。 72分とは思えないほどの濃密な内容。監督の家族や知人など7人の身近な女性たちが登場し、自慢料理を作りながら、イラン女性の置かれている状況と壮大な家族の歴史を本…

ヴァンパイア

岩井俊二がカナダを舞台に、全編英語で撮った最新作。通常のヴァ​ンパイアものとはひと味もふた味も違う、切ないラブストーリーだ​。 自殺志願者のサイトで見つけたターゲットを、心中を装って殺し​、被害者から抜いた血を飲んでは吐く、を繰り返す男性高校…

この空の花ー長岡花火物語

新潟県長岡市で毎年8月2日・3日に開催される花火大会は、単なる観光イベントではない。長岡空襲と中越地震の犠牲者を弔い、その復興と平和を祈念する「長岡魂」の象徴なのだ。 本作はふるさと映画ではあるが、長岡の史実を描くことで、我が国の"人災(戦…

少年と自転車&オレンジと太陽 

親に棄てられた子どもを支える、強い意志を持った女性が登場する映画2本、『少年と自転車』と『オレンジと太陽』を続けて観た。 昨年のカンヌ国際映画祭グランプリに輝いたベルギーのダルテンヌ兄弟の『少年と自転車』は、施設に預けられた少年が、迎えに来…

だんらんにっぽんー愛知南医療生協の奇跡

友人の武重邦夫プロデューサー(高校の同期生で今村昌平の愛弟子)が企画製作した、名古屋市の南医療生協を描くドキュメンタリー映画が、6月29日(金)まで、10:00〜1回のみ、名古屋の名演小劇場で上映中だ。 南医療生協は、1959年の伊勢湾台風の被害者約300…

友人の武重邦夫プロデューサー(今村昌平の愛弟子)が企画製作した、名古屋市の南医療生協を描くドキュメンタリー映画『だんらんにっぽん』http://danran-nippon.main.jp/が、6月9日(土)から6月29日(金)まで名古屋の名演小劇場で上映されている。 1959…

近年はますます鑑賞本数が減るばかりだ。昨年は75本。見逃した名作は数知れず。・日本映画 1.『東京公園』/「見つめる、見返される」の繰り返しは、写真や映画が持つ幽霊性を表す。それらを見ているようでいて、ただ自分のみを見ているのだ(内なる他者…

新年のご挨拶を申し上げます 2011年の劇場・ホール・試写室鑑賞映画は75本。ここ数年減少傾向ですが、私及び家族の病気やチビとのつきあいなど、映画以外のことに費やす時間が増えたためです。 連れ合いと観たのは『大鹿村騒動記』のみ。本作の評価に関して…

5本

『ミラノ、愛に生きる』 富豪に嫁いだロシア出身のヒロインの心身の解放を描く。 故郷を捨てた悲哀、夫によりモノ化された日常、能面のような表情で暮らす贅沢三昧・・・。 人間の本能である「食」に触発され、虚飾に満ちた人工の世界〜自然児へと脱皮するプ…

4本

『ストリートダンス』 コンテスト優勝をめざすロンドンのダンスチームを描く物語。 元気を与えてくれるこのダンスが好きだ。 吹き替えには面食らったが、スタジオの確保と他チームとの差別化を図るため、 クラシックバレエとの融合に活路を見出すアイデアが…

5本

『恋の罪』。鬼才園子温の傑作。 4人の女性の生きざまを通して、抑圧された究極の深層心理を抉り出す。 言葉と肉体、表象と意味のズレは、永遠に辿りつけない「城」を目指して旋回するようなもの。 人間が唯一、辿りつけるのは「死」だが、予測のつかない展…

大鹿村騒動記

娯楽映画としての評判は上々のようだが、大鹿村のファンの1人として、いくつか不満な点がある。 この村は私のお気に入りのスポット。長年かけて秋葉街道を走破する過程で、15年前から6、7回訪ねている。村の隅々まで車で走ったが、「日本で最も美しい村」…

『奇跡』&『風の中の子供』

・『奇跡』で 子どもたちはとにかく道を走る。 それも半端じゃなく真剣に。 「生きる」とは「死」への道程だ。道を辿る行為は、願いや欲望を超えて「世界」を開く。 奇跡とはまさに世界の開かれだ。彼らの叫んだ言葉は転がり、周辺を巻き込み、思いがけない…

『悲情城市』&ホウ・シャオシェン監督を囲む座談会

愛知県芸術文化センターにて開催。 99年に在日台湾人の友人の里帰りについて行った台湾北部。本作は未見だったが、ロケ地の基隆と九分を案内してもらった。 帰国後、すぐにビデオで鑑賞。画面が小さいため、海や山、レトロな美しい景色を堪能できなかった。 …

 ブラックスワン

「母と娘」がテーマ。子離れ親離れの出来ない2人。バレエ界で挫折した母の願望は、娘に贈った白鳥の湖のオルゴール人形のように、完璧な踊りを娘が実現して成功すること。そのためなら過干渉も厭わない。 娘の方は母の期待がプレッシャーになり、依存と憎悪…

最新映画短評6本

*[最新映画短評] ・「ゲンスブールと女たち」 醜男なのにモテまくりの彼。イジメ、ユダヤ人、戦争などのトラウマを抱え、その反射として類まれな才能を開花させた。苦悩が人を魅力的にする典型。分身の暗躍は、彼の原点を解りやすく表現しているが、饒舌…

行 私を離さないで

社会の掃きだめにいる人々から生み出された、臓器移植のドナーとなる宿命の「クローン人間」。彼らをモノとして扱う国家。自分たちが生き延びるために、彼らの意識のあるうちに、臓器をむさぼり、取りつくす私たち・・・。 男女3人の主人公である「クローン…

昨年は、4月に右膝を骨折、猛暑で夏バテと散々だった。鑑賞本数も激減したが、印象に残った作品について記してみよう。 ・日本映画 悪人/キャタピラー/パレード/祝の島/葦牙/マザーウォーター/トイレット/ばかもの/告白/月下の侵略者 「悪人」では…

アメリア 永遠の翼

(ネタばれ注意!) 女性の自立を描く作品ではあるが、観ていて疲れた。 無謀な冒険を実現させた主人公に拍手は送れない。「自分の夢を叶えるために」莫大な捜索費用をかけて税金の無駄遣いをするのはやめてほしい。 時代のアイコンとして、政府も社会も彼女を…

 乱暴と待機

(ネタばれ注意!) 主人公の2人、山根と奈々瀬は、「乱暴」と「待機」の関係にある。山根は過去の事件を理由に奈々瀬を軟禁し、彼女に復讐することを目論んでおり、奈々瀬はその状態を嬉々として受け入れ、復讐される日を待っているからだ。 過去の事件とは・…

[ハ行] ぼくのエリ 200歳の少女

(ネタバレ注意!) 「暴力の必然性」と「越境の重要性=ジェンダーの解体」。 本作は、人間の生にとって欠かせないこの2つの要素を、ミステリアスかつ美しい映像で、丁寧に描いている。 人が生きていくためには、「暴力」は必然である。 「他者を殺戮して、…

 瞳の奥の秘密

(ネタばれ注意!) テーマは「終身刑」である。それは実刑として執行されるとともに、登場人物たちの想いとして、また監督のメッセージとして、それぞれの瞳の奥に隠されている。 刑事裁判所事務官を退職したばかりのベンハミンは、26年前に扱った未解決の…

悪人

(ネタばれ注意!) 「母」のメタファーである「灯台」が、キーワードだ。それは人間の生存の条件となる「イメージの獲得」へとつながり、ラストシーンで鮮やかに描き出される。 さまざまな解釈ができる本作は、根源的な問題を孕みながら、サスペンスフルでか…

キャタピラー

(ネタばれ注意!) 反戦がテーマであるが、国家間の戦争と家庭内(女と男)の戦いとを重ね合わせて、 帝国主義における暴力の問題を突きつけている。 タイトルの「キャタピラー」は、帝国主義のメタファーである「戦車(強者が弱者を踏みつぶす)」を表す。 …

ビューティフルアイランズ

南太平洋のツバル、イタリアのベネチア、アラスカのシシマレフ島。これらの島は今世紀中に海没するだろうといわれている。 本作は、”喪われゆく世界”をテーマに、この3つの島の現状を3年間かけて映像化。気候変動がもたらす地球環境への影響の大きさを問題…

アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち

60〜70年もの演奏歴を持ち、現在も現役として活躍中のマエストロたち22名が、ニューアルバムを制作するために一堂に会し、世紀のコンサートを実現させたドキュメンタリー。 国宝級の演奏者たちが、世界3大劇場の1つ、ブエノスアイレスのコロン劇場で…